接ぎ木の接合部分、挿し木の切り口部分、細根部などに淡褐色の表面の粗いコブのような塊を生じます。このコブに栄養分を奪われるため、地上部は樹勢が衰え、ひどい場合は枯死することもあります。

根頭がん腫病は、アグロバクテリウム・トゥメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)という細菌が病原菌です。根頭と言うのは、根のてっぺんの事で、根と茎の境目の事を指します。

英語ではCrownといい(この部分に一番病気が発生し易い)、根頭がん腫病の事はCrown Gall(クラウン ゴール)といいます。

元来、土壌に住む土壌細菌です。根粒菌などと同じ仲間と言われています。

植物細胞の分裂や分化はサイトカイニンとオーキシンという2つの植物生長ホルモンの量的バランスの下に制御されています。根頭がん腫菌は、この2つの植物ホルモンを大量に生産させる事により、植物にがん腫を形成させます。

土壌中には様々な種類の微生物が生息していますが、それらの中でこのアグロバクテリウムは、植物に感染すると「クラウンゴール」と呼ばれる腫瘍を形成します(上の写真 参照)。
バラの根頭がん腫病は、この細菌の感染・寄生によるものです。

大きさは1〜3μm程度、25〜30℃の過湿条件で繁殖し易いと言われています。

コブが出来ている場合、がん腫菌はコブの中で繁殖・越冬し、土壌中にも出て行きます。また本来、土壌細菌であるため、移動することなく、ほぼコブの近辺に存在するようです。

上図により、一旦コブを作る遺伝子を組み込まれた植物細胞は、がん腫菌がいなくなってもコブを作ルことが出来るようになります。

がん腫細菌の遺伝子の一部、すなわちTi-プラスミドが組み込まれたバラの細胞は、

 1.がん腫菌の栄養分となるオパインopines(他の細菌は利用できないので、独占できることになります)というアミノ酸をせっせと作り出します。

 2.サイトカイニン、オーキシンなどの植物ホルモンを大量に作り出します。その結果、コブを形成します。

土壌に住む細菌なので、殺菌剤が効きにくく、コブを発見した場合、確実な対策方法は現在のところ知られていません。

但し、経験的な方法としては、コブを発見したら、

 コブ部分を少し大きめにえぐり取ります。えぐり取ったコブは崩れ易いので、微砕片が散乱しないように注意します。

 コブ部分の切り口に「キノンドー」などの有機銅剤を、粉のまま塗り付け、周囲の土にも軽く混入しておきます。

 処理した株は目印を付け、他の鉢と離しておきます。

 除去に使用したナイフ等は、ガスの火で焼くか、漂白殺菌液などに浸けて殺菌しておきます。

 鉢植えの場合は、冬期に土を落として根をチェックし、堆肥や腐葉土の多い新しい土で植え替えます。

以上の処理でほとんど再発はしないようです。(再発した場合は、再度行います)

 根の近くから分離されたアグロバクテリウムの90%以上は、非病原性の細菌だそうです(アグロバクリウム ラジオバクターと呼ばれています)。この中のK 84株は、特に競合性が強く、癌腫病の予防用の微生物剤として利用されています(日本での商品名は「バクテローズ」といいます)。
 
 アグロバクテリウムは基本的には根圏微生物であり、その中のごく一部のものが、Ti-プラスミドを持ち、病原細菌となる事が出来るのだそうです。
 
 但し、その一部の病原性のアグロバクテリウムが、非病原性のものよりも素早く植物の根の傷口からしみ出る物質に反応するという事です。

 これらの事より、がん腫病菌が土壌中にいても、
 
  1.健康な根で、傷口が少ない場合

  2.病原菌も非病原性の微生物と競合しているので、これらが多くある環境では100%病原菌が勝つとは限らない

等の理由で発病しない事も多いのではないかと思います。

 「新しい土に植えれば、がん腫が発生しない!?」

  外見上、健全に見える苗木でも、がん腫発生の元になるTi-プラスミドを内在している場合、新しい土は競合する微生物が少ない事もあり、がん腫発生の可能性は大きいです。

 「挿し木では、がん腫は発生しない!?」

これも?と同じ理由で、Ti-プラスミドを内在する枝での挿し木では、がん腫発生の可能性は大きいと言えます。
挿し穂や接ぎ木穂を採る場合は、Ti-プラスミドの内在が少ない地上から50cm以上に部位の枝から採取することをオススメします。

 「カルス(治癒組織)やネマトーダ(土壌線虫)との混同!?」

根頭に出来るカルスは、葉緑素を持っています。少し緑色がかっているので見分けが出来ます。
地下部のカルスやネマトーダは、ちょっと見分けがつかない場合もあります。

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